240 研究領域の現状
桑 島 邦 博(教授) (2007 年 1 月 1 日着任)
A -1) 専門領域:蛋白質科学,生物物理学,生体分子科学
A -2) 研究課題:
a) αラクトアルブミンとカルシウム結合性リゾチームのフォールディング機構 b) αラクトアルブミンのモルテン・グロビュール状態の特性と生物機能 c) アミロイド形成能を持つβ2ミクログロブリンのフォールディング機構 d) 自己組織化ナノ繊維の形成機構
e) 大腸菌シャペロニンの機能発現の分子機構
A -3) 研究活動の概要と主な成果
a) 昨年までの研究で,ヤギαラクトアルブミンとイヌ乳リゾチームは,互いに相同で立体構造も類似しているにもかか わらず,フォールディング経路の異なることが明らかになっている。本年は,αラクトアルブミンとリゾチームの天 然三次元構造をもとに,それぞれ全原子 - 全原子間の距離を計算し,相互作用の密度を調べた。その結果,αラクト アルブミンでは C - へリックスとβドメイン間,リゾチームでは B- へリックスと D- へリックス間において相互作用密 度の高いことが明らかになった。このような天然構造における相互作用密度の違いがαラクトアルブミンとリゾチー ムのフォールディング経路の違いをもたらしたと推測される。
b) 脂肪酸との複合体が腫瘍細胞選択的細胞死活性を持つとして知られる,ヤギαラクトアルブミンのモルテン・グロ ビュール状態の構造解析を,N M R を用いて行っている。モルテン・グロビュール状態にあるヤギαラクトアルブミ ンの三次元 NMR スペクトルを 920 MHz の NMR 装置を用いて測定し,80 個から 90 個の分離したクロスピークが観 測され,約 40 残基の主鎖アミドプロトンの帰属が完了した。
c) 本年は,β2ミクログロブリンの複雑な巻き戻り過程を明確に特徴づけるために,数値シミュレーション解析を行い, 実験結果をうまく説明できる反応スキームを決定した。また,弱酸性条件下(pH 4)で形成される平衡論的中間体 と巻き戻り過程で観測される速度論的中間体との関係を明らかにするために,ストップトフロー C D 法を用いて巻き 戻り反応を解析した。その結果,平衡論的中間体はバースト相中間体およびその後に形成される速度論的中間体と は異なることがわかった。
d) ポリペプチドが自己組織化したナノ繊維の形成過程を明らかにするため,単層βシートを持つモデル蛋白質,OspA のフォールディングを調査した。フォールディング過程は二つの指数関数でよくモデルされ,変性剤変性による滴定 実験の結果と一致した。フォールディング過程をトリプトファン蛍光で追跡するため,変異体を数種類作製し,測定 に適した変異体を見いだした。この変異体を用いた測定を現在進めている。
e) シャペロニン GroE Lの第二の A T P 結合部位の同定を目的に,azido-A DP 及び azido-A T P による光親和性標識を行い, 蛍光性亜鉛錯体を用いて標識 G roE L中のリン酸基の存在を確認した。標識された蛋白質のプロテアーゼ分解後, H P L C によって単離されたペプチド断片のアミノ酸配列分析を行い,標識部位を同定した。標識部位から第二の A T P 結合サイトは G roE L頂上ドメインに存在することが示された。詳細な結合部位同定のため,頂上ドメイン単独 の大腸菌組み換え体発現系を構築し,解析を進めている。また,水素交換標識二次元 N M R を用いて G roE L /E S 複
研究領域の現状 241 合体の構造ダイナミクスを解析することを目的に,D M S O 溶液中における G roE S の N M R 測定を行った。分子研に 設置されている 920M H z NM R 装置を用いることにより,500M H z NM R 装置では分離困難であった HS QC シグナル の分離に成功した。現在,アミドプロトンシグナルの帰属を進めている。
B -1) 学術論文
T. KANZAKI, R. IIZUKA, K. TAKAHASHI, K. MAKI, R. MASUDA, M. SAHLAN, H. YÉBENES, J. M. VALPUESTA, T. OKA, M. FURUTANI, N. ISHII, K. KUWAJIMA and M. YOHDA, “Sequential Action of ATP-Dependent Subunit Conformational Change and Interaction between Helical Protrusions in the Closure of the Built-in Lid of Group II Chaperonins,” J. Biol. Chem. 283, 34773–34784 (2008).
T. ISHII, Y. MURAYAMA, A. KATANO, K. MAKI, K. KUWAJIMA and M. SANO, “Probing Force-Induced Unfolding Intermediates of a Single Staphylococcal Nuclease Molecule and the Effect of Ligand Binding,” Biochem. Biophys. Res. Commun. 375, 586–591 (2008).
T. INOBE, K. TAKAHASHI, K. MAKI, S. ENOKI, K. KAMAGATA, A. KADOOKA, M. ARAI and K. KUWAJIMA,
“Asymmetry of the GroEL-GroES Complex under Physiological Conditions as Revealed by Small-Angle X-Ray Scattering,” Biophys. J. 94, 1392–1402 (2008).
B -3) 総説,著書
桑島邦博 , 「真性体および組換え体αラクトアルブミンの構造の安定性とダイナミクス」, Milk Science 56, 119–122 (2008).
B -4) 招待講演
K. KUWAJIMA, “Experimetal and Simulation Studies on the Folding/Unfolding of Goat α-Lactalbumin,” 特定領域研究「水と
生体分子」第5回公開ワークショップ , 奈良県新公会堂 , 奈良市 , 2008年 1月.
桑島邦博 , 「相同蛋白質のフォールディング機構 —イヌ乳リゾチームとヤギαラクトアルブミンの比較研究」, 次世代スー パーコンピュータプロジェクト「ナノ分野グランドチャレンジ研究開発」第2回公開シンポジウム, 岡崎コンファレンスセンター , 2008年 3月.
K. KUWAJIMA, “Folding Mechanism of Homologous Proteins: A Comparative Study of α-L actalbumin and L ysozyme,” 膜蛋 白質研究国際フロンティア国際シンポジウム, 千里ライフサイエンスセンター , 吹田市 , 2008年 3月.
K. KUWAJIMA, “Folding Mechanisms of Homologous Proteins: A Comparative Study between Lysozyme and alph- Lactalbumin,” ACS 236th National Meeting Symposium Protein Folding Dynamics: Experiment and Theory, Philadelphia (U.S.A.), August 2008.
K. KUWAJIMA, “Molecular Mechanisms of the Chaperone Function of GroEL,” the 8th KIAS–Yonsei Conference on Protein Structure and Function, Seoul (Korea), October 2008.
B -7) 学会および社会的活動 学協会役員等
日本蛋白質科学会副会長 (2008– ). 日本蛋白質科学会理事 (2001.4–2005.3).
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日本生物物理学会運営委員 (1992–1993, 1999–2000). The Protein Society, Executive Council (2005.8–2007.7).
日本生化学会評議員 (2005– ). 学会の組織委員等
第24回谷口国際シンポジウム “ Old and New V iews of Protein F olding,” 木更津(かずさアカデミアパーク), 世話人 (1999). T he 1st International C onference on Biomedical Spectroscopy: F rom Molecule to Men, Cardiff (U.K .), 組織委員 (2002). T he 1st Pasific-R im International C onference on Protein Science, Y okohama (J apan), 組織委員 (2004).
K IA S C onference on Protein Structure and F unction, Seoul (K orea), 組織委員 (2001– ). 日本生物物理学会第45回年会 , 横浜(パシフィコ横浜), 年会長 (2007).
文部科学省,学術振興会,大学共同利用機関等の委員等 科学研究費審査部会専門委員会委員 (2002, 2004).
J ST 若手個人研究推進事業(C R E ST )領域アドバイザー (2001–2005). J ST 戦略的創造研究推進事業評価委員 (2004, 2005).
学会誌編集委員
Folding & Design, Editorial Board (1996–1998).
Biochimica et Biophysica Acta, Editorial Board (1998–2003). J. Biochem. (Tokyo), Editorial Board (1997–2002).
Protein Science, Editorial Board (2001–2006).
Proteins: Strucuture, Function & Bioinformatics, Editorial Manager (1993– ). J. Mol. Biol., Editorial Manager (2004– ).
BIOPHYSICS, Editorial Manager (2005– ).
Spectroscopy—Biomedical Applications, Editorial Board (2002– ).
競争的資金等の領域長等
特定領域研究「水と生体分子が織り成す生命現象の化学」領域代表者 (2003–2007). その他
大阪大学蛋白質研究所外部評価委員 (2000, 2007).
B -8) 大学での講義,客員
総合研究大学院大学物理科学研究科 , 「分子集合体論」, 2008年 1月–2月. 総研大アジア冬の学校 , 「Molecular Mechanism of Protein F olding」, 2008年 12月. 名古屋大学大学院理学研究科 , 客員教授 .
B -10) 競争的資金
基盤研究 (B), 「シャペロニンの機能発現の分子メカニズム」, 桑島邦博 (1998年 –1999年 ).
基盤研究 (B), 「高圧温度ジャンプ法と計算機シミュレーションによる蛋白質フォールディング研究」, 桑島邦博 (2000 年 –2002 年 ). 基盤研究 (C )(企画調査)「蛋白質フ, ォールディング研究の企画調査」, 桑島邦博 (2001年 ).
特定領域研究(公募研究)「蛋白質一生」「大腸菌シャペロニンの機能発現の速度論」, , 桑島邦博 (2002 年 –2003年 ).
研究領域の現状 243 特定領域研究(公募研究)「ゲノム情報科学」「蛋白質フ, ォールディングの物理化学的解析」, 桑島邦博 (2002 年 ).
特定領域研究(計画研究 (2))「水と生体分子」「蛋白質フ, ォールディング機構の物理化学的解明」, 桑島邦博 (2003年 –2007年 ). 特定領域研究(計画研究 (1))「水と生体分子」, 「水と生体分子が織り成す生命現象の化学に関する研究の総括」, 桑島邦博 (2003年 –2007年 ).
基盤研究 (B), 「シャペロニンの機能発現の速度論的解析」, 桑島邦博 (2005年 –2007年 ).
特定領域研究(成果取りまとめ)「水と生体分子」, 「水と生体分子が織り成す生命現象の化学に関する研究の総括」, 桑島邦 博 (2008年 ).
基盤研究 (B), 「シャペロニン GroE L の第二の A T P 結合部位とその機能的役割」, 桑島邦博 (2008年 – ).
新学術領域(計画研究)「揺らぎと生体機能」「シャペロニンの構造揺ら, ぎとフォールディング介助機能」, 桑島邦博 (2008年 – ). 若手研究(スタートアップ)「蛋白質デザイ, ンによる自己組織化ナノ繊維形成過程の解明」, 真壁幸樹 (2008年 – ).
C ) 研究活動の課題と展望
蛋白質のフォールディング問題は物理化学としても興味深いが,生命科学や医学とも深い関わりを持っている。特に,フォー ルディング中間体であるモルテン・グロビュール状態のαラクトアルブミンが脂肪酸(オレイン酸)と複合体(H A M L E T )を形 成すると抗腫瘍活性を発現するのは興味深い現象である。今年度の研究からモルテン・グロビュール状態にあるαラクトア ルブミンの分離観測された NMR シグナルの約半数を帰属できたので,これをもとにして,HA ML E T 中のモルテン・グロビュー ル状態の構造に関する知見を得たい。また,アミロイドなどのナノ繊維は疾病との関わりが強い。このナノ繊維をモデル化し た OspA 蛋白質のフォールディング解析を詳細に行うことにより,繊維形成における核形成・伸長反応の物理的基盤を明らか にする。
シャペロニンは細胞内の蛋白質フォールディングに関わっており,シャペロニンの作用の分子機構を明らかにすることは,蛋 白質フォールディングとより高次の生命現象との関係を解き明かす上で重要である。本年度の結果から,D M S O 中における GroE S の NMR シグナルの帰属をほぼ完了したので,今後,水素交換標識二次元 NMR を用いて GroE S 単独および GroE L / GroE S 複合体の構造のダイナミクス解析を進めていく。